ナノ構造形成ナノ光電子物性量子情報デバイスナノ光電子デバイスIoTフォトニクス
量子情報デバイスの基礎技術研究
 量子通信や量子コンピュータのキーデバイスとなる単一光子光源やもつれ光子対光源、スピン機能デバイスの実現に向けて研究を進めています。電流注入による単一光子発生や、通信波長帯1.55 μm単一光子発生器を用いた量子鍵配送実験などに取り組んでいます。また、単一量子ドットを本質的な利得として用いた量子ドットナノレーザを、世界で初めて実現しています。


1.5 μm帯量子ドット単一光子源と量子鍵配付システムの開発
量子鍵配付は物理学的原理により安全性が保証された極めて高セキュアな秘密鍵共有手段である。そのためのキーデバイスが、光子を一個ずつ生成する単一光子源である。我々はこれまで、長距離伝送に有利な1.5 μm波長帯において高効率の量子ドット単一光子源を開発し、50 kmでの量子暗号鍵伝送を報告してきた[1]。今回、量子ドットへの光励起条件などを最適化することで、距離制限要因となる多光子生成率を最大2500分の1(減衰レーザ光比)まで抑制した世界最高純度の1.5 μm波長帯単一光子源を実現することに成功した。さらに、高純度単一光子源と超低ノイズ超伝導単一光子検出器を融合した量子鍵配付システムを新たに構築し、単一光子源方式で最長となる120 kmの量子暗号鍵伝送を達成した[2]。本成果により、主要都市圏をカバーする盗聴不可能な高セキュア通信の実現に大きく弾みがつくものと期待される。

(左)単一光子量子鍵配付システムの写真
(右)伝送実験結果

【主要発表文献】
[1] K. Takemoto, et al., Appl. Phys. Express 3, 092802 (2010).
[2] K. Takemoto, et al., Sci. Rep. 5, 14383 (2015).

GaN材料を用いた室温単一光子源の開発
青紫色発光デバイスやハイパワー電子デバイスの材料として注目を集める窒化物半導体で形成された量子ナノ構造は、量子閉じ込めが強く、高温においても安定な励起子を有するため高温で動作する単一光子発生デバイスとして有望である。近年、我々は位置制御された窒化物ナノワイヤの成長に成功し、低面積密度、高い励起子分子結合エネルギー、及び、クリーンな発光スペクトルを有する高品質なGaNナノワイヤ量子ドットの形成にも成功した。このような高品質の位置制御ナノワイヤGaN量子ドットを用い、パルスレーザ励起により、350K(77℃)における単一光子発生を実現した。この結果は、室温より高温での単一光子発生の初めての事例であり、GaN量子ドットが高温動作する量子テクノロジーの基盤となり得ることを示した点において重要な成果である。

単一ナノワイヤ量子ドットの簡略図、及び、 350Kにおける単一光子発生を示すg(2) [t]の測定データ

【主要発表文献】
[1] M. Holmes, K. Choi, S. Kako, M. Arita, and Y. Arakawa, Nano Lett. 14, 982 (2014).
[2] M. Holmes, S. Kako, K. Choi, M. Arita, and Y. Arakawa, ACS Photonics. 3, 543 (2016).

スピン-光子変換量子技術基盤
固体中の電子・正孔のスピン角運動量は演算用の量子ビットとして、光子は偏光を利用した通信用の量子ビットとして、量子情報処理技術への応用が期待されている。これらふたつの物理量を接続するのがスピン-光子間の角運動量変換であり、これを利用した量子中継器は、大規模な量子情報ネットワークに向けて注目を集めている。この変換を効率的に行うためには、円偏光を閉じ込める共振器が必要である。我々は、らせん状に屈折率が変調された三次元カイラルフォトニック結晶を用いて円偏光共振器を作製し、共振器モードを観測することに成功した。これは、円偏光における電場・磁場が描くらせん軌跡と同じ対称性をもつ構造によって、円偏光が制御されたためである。最近では、この円偏光共振器に量子ドットを導入し、ドット内のスピンと閉じ込めた円偏光との結合に取り組んでいる。
(左)三次元カイラルフォトニック結晶共振器のSEM像
(右)偏光バンドギャップ内に観測された共振器モード

【主要発表文献】
[1] S. Takahashi, et al., PLMCN17, We8 (2016).
[2] 高橋他、第63回応用物理学会春季学術講演会、21a-S621-11 (2016).